オニの忘れた子守歌(5/6)

文・伊藤由美   絵・岩本朋子

あたりは、とっぷりと、暗くなりました。
こずえの間に、ちらちらと、星がまたたいています。
大きな月は、林に見えかくれしながら、てんてん坊の行く先を照らします。
満開を過ぎた桜が、はらはらと、花びらを散らし、道は、まるで、白いじゅうたんをしいたようです。

「なんとまあ、天女の通う道のようだ!」
てんてん坊は、思わず知らず、流行り歌を口ずさんでいました。
ところが、とうげも間近というところで、急に、生ぐさい、冷たい風が吹いてきました。
そこは、両側を、高い岩かべにはさまれた、せまい切通しです。
そのがけの下、黒ぐろとしたやみの中に、ちらちらと、たき火が燃えていました。
だれか、火の前に、がかがみこんでいます。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

岩本朋子 について

福井県福井市出身。同市在住。大阪芸術大学芸術学部美術家卒。創作工房伽藍を主催。伽藍堂のように何も無いところから有を生むことをコンセプトでとして、キモノの柄作りからカラープランニング等、日本の伝統的意匠とコンテンポラリーな日用品(漆器、眼鏡、和紙製品等)とのコラボレーションを扱い、オリジナルでクオリティーの高いものづくりを心掛けている。また、高校非常勤講師として教えるかたわら、福井県立美術館「実技基礎講座」講師を勤める。