2 一難去ってまた一難
「急いでいるのか?」
聞かれて時計に目をやると、まだ、9時過ぎだ。
「いいえ」
「そんなら、寄ってけ」
「と、言われましても。見ず知らずの方の、」
「見ず知らず?」
策作じいさんの視線が、空を泳ぐ。
「おまえは、キツツキ。そして、わいは?」
「佐熊山策作さんです」
「ほーれ!」
確かに、見ず知らずではないけれど。
詳細に知っているのは名前だけ。
片眉上げて、まるで鬼の首をとったように得意げな顔されるほど、見知っているわけでは断じてない。
けれど、一体全体、このじいさんは、なんなんだ?
湧き上がる好奇心に、あたしは負けた。
「まずは、スイカでも食おう」
「はいっ!」
でも、一番負けたのは、大好きなスイカにか・・・。
「ついてこい」
策作じいさんに案内されて、古くて大きい木の門をくぐる。
門の両側から、板塀がぐるりと屋敷を取り囲んでいる。
門から玄関にたどり着くまで、数分はかかりそうだ。
「おまえ、キツツキはこの辺の者ではないな」
軽快な後ろ歩きで、策作じいさんが問う。
「はい。旅の者です」
「ということは」
「はい。見物に」
ここ、越の国地方にも、興味ひかれる風習があるのだ。
あたしは、それの見物に来た。