8 第一夜
お盆の、花盛り町大字細八字猪甲乙に夜が来た。
ここ、佐熊山家にも、当然いらっしゃるはずだ。見えたり、見えなかったりする方々、すなわち、ユーレイの方たちが。
仏間に並ぶ写真の数だけかどうかは、わからないけど。
普通の感覚だったら、たぶん、怖い。
いやいやいやいや、絶対怖いにちがいない。
しかし、どうも、いまのあたしは、普通の感覚ではないようだ。
強烈な太陽の下での体験と、・・・淡い恋心が、あたしの感覚をまひさせている。のかもしれない。
と考えていて、ふと、思う。
あたしは、もしかしたら、太朗にも、抱いていたのだろうか? 淡い恋心?
いや・・・、いやいやいや・・・。
とにかく、だ。
あまりにもリアルに、あまりにもふてぶてしく、あまりにも存在感丸出しの自転車屋のじいさんユーレイとの遭遇は、あたしから恐怖心をぶっ飛ばした。
きれいな白猫、チョウコが天に昇って行くのを目撃した時は、驚きはしたけれど、その現象を自然に受け入れられていた。
浜に出かける前に、ちらりと見かけた、策作じいさんのお兄さんのユーレイに至っては、怖いどころか、会いたくてたまらない。
にもかかわらず、会えないでいる。
他の方たちも、見当たらない。
「キツツキ、夜ごはんは冷蔵庫の中のもん、適当に食うたらええで。わいも、そこらへんのもん、つまんどく」
「はい。あっ、あの、シャワー使ってもいいですか?」
「シャワーでも風呂でも勝手に使い。せや、せや、ふとんは、」
と策作じいさんが案内してくれた客間に、あたしは、いま、いる。
シャワーを浴びて、スイカを食べて、策作じいさんが、そこらへんのもんと表現していた仏間のお供え、豆大福をひとついただき、ふとんに背中をつけた瞬間、眠りに落ちた。