『ひかり』
ドゥブラヴカ・コラノヴィッチ 文・絵
立原えりか 訳
講談社
本書は私が好きそうな絵柄だったからと、夫が買ってきてくれた絵本です。
コロコロした可愛いちいさなこいぬとペンギンが、雪原で手をつないでいる表紙に、心がキュンとなりました。ずっと夜でずっと冬の世界に住んでいる「ふたり」が、あかるい色と光を求めて旅をするおはなしです。
この絵本の特徴は、絵もお話も、本当にシンプルなことです。登場するキャラクターたちは、瞳は点々で口もなく単純で、表情がほとんどありません。背景も、描かれているのは空と雪と氷と海だけ。風もなく、まるで真空のような幻想的で静かな世界です。文章も無駄がなく、わかりやすい言葉が使われていて、淡々とお話が進んでいきます。
以上のシンプルさが、読者が絵本を読みながら、様々なことに思いを巡らせる余地を与えてくれます。主人公の「ふたり」を、自分と誰かに重ねたり、「ふたり」が旅の道中で出会い、ひかりに向けて導いてくれる生き物たちを、「ああ、このクジラは、あの時に出会ったあの人みたい・・・」「このペンギンたちは、あの時あそこにいたあの人たちかな・・・」と、ゆっくりと考えながらページをめくることができます。
キャラクターのアップの場面がなく、壮大な風景の中にぽつんぽつんとキャラクターが描かれているので、「ふたり」の存在のちいささが際立ちます。「ふたり」を遠くから見守るような視点でお話が進みますが、読んでいくうちに、自分自身がおおらかで優しいものに見守られているような感覚になります。
作者はクロアチアの方ということですが、きっと素直で優しい心の持ち主なのだろうと、想像できます。静かで深みのある内面的な内容なので、どちらかというと人生経験を重ねた大人向けの絵本かもしれませんが、子供たちにも、美しく優しい世界を感じ取ることができると思います。
私はこの先、この広い世界でどんな旅をしていくのかな? 人たちと出会うかな? 冷たくて寒い氷や雪の大地をあるいていくことができるかな? 明るいひかりをみつけることができるかな? これからも人生の折にふれ読み返していきたい大切な一冊です。