つなぐ(7/10)

文・藤 紫子  

駅員さんは困った顔をして言いました。
「申し訳ございませんが、それはむずかしいですね。たとえ、落とし物を届けていただきましても、こう申し上げるのは失礼ですが、高価な物以外はその方のご住所やお名前までおたずねいたしません。もし、おたずねしていても、個人情報ですので、お客様にお知らせすることもできません。ましてや、今回はお客様がご自身で見つけられたのですから、こちらでは分かりかねます」

おじいさんは、かまわずに熱く語りだしました。
「このお守りはな、わたしの命と同じくらいとても大切なものなのだ。近ごろは、ご近所さんでも付き合いがうすくなった。見ず知らずの人とは関わろうとしない。そんなご時世に、こんなご親切を受けた。わたしは大変うれしい。なんとしてもお礼を申し上げたいのだ」
おじいさんは頑として動きません。

藤 紫子 について

(ふじのゆかりこ) 札幌市生まれ。札幌市在住。季節風会員。小樽絵本・児童文学研究センター正会員。12年ほど町の図書館員をしていました。子ども向けのお話と好き勝手な詩(https://ameblo.jp/savetheearthgardian/entry-12601778794.html)を書いています。自然・ドライブ・博物館・棟方志功氏の作品・源氏物語・本(本なら問題集でも!)が好き。