駅員さんは困った顔をして言いました。
「申し訳ございませんが、それはむずかしいですね。たとえ、落とし物を届けていただきましても、こう申し上げるのは失礼ですが、高価な物以外はその方のご住所やお名前までおたずねいたしません。もし、おたずねしていても、個人情報ですので、お客様にお知らせすることもできません。ましてや、今回はお客様がご自身で見つけられたのですから、こちらでは分かりかねます」
おじいさんは、かまわずに熱く語りだしました。
「このお守りはな、わたしの命と同じくらいとても大切なものなのだ。近ごろは、ご近所さんでも付き合いがうすくなった。見ず知らずの人とは関わろうとしない。そんなご時世に、こんなご親切を受けた。わたしは大変うれしい。なんとしてもお礼を申し上げたいのだ」
おじいさんは頑として動きません。