つなぐ(8/10)

文・藤 紫子  

おじいさんはひとり、話しだしました。
「清枝さん。約束どおり、今月も来たよ。今日は少し遅くなったがね。知っているだろうけれど、あなたが作ってくれたお守りを落としてしまってね。でも、親切な方が拾ってくれた。おかげさまで、こうして、わたしのところにもどってきたよ。それに――」
拾ってくれた人に、おじいさんがしたためるお礼の手紙を、駅長さんが渡してくれることになったことをほうこくしました。

「いろんな手を使って、駅長さんが探してくれることになったのだよ。駅長さんも親切な方だ。どうにか見つかってほしい。そして、わたしの手紙がぜひとも親切な方に渡ってほしい。まあ、しばらくは、手をこまねいて見ているほかないな」
おじいさんはそのほかに、このひと月にあった出来事や、変わったこと、感じたことなどをひととおり話しました。

静かでおだやかなときが流れました。
何十年も前、この穴に逃げこもうとしていた清枝さんが、敵機の攻撃でうち殺されたなどということがあったとは思えない、平和なひとときでした。

藤 紫子 について

(ふじのゆかりこ) 札幌市生まれ。札幌市在住。季節風会員。小樽絵本・児童文学研究センター正会員。12年ほど町の図書館員をしていました。子ども向けのお話と好き勝手な詩(https://ameblo.jp/savetheearthgardian/entry-12601778794.html)を書いています。自然・ドライブ・博物館・棟方志功氏の作品・源氏物語・本(本なら問題集でも!)が好き。