「あぶないところを たすけて いただき ありがとうございます」
「おっかちゃん、けがが なくて よかったね」
ははネコに あまえる さんきちを みて、たまさぶろうの めが、かまぼこのように ほころんだ。
「こまったときは、おたがいさまよ。それより、こんど、どらはちが やってきたら、これを おわたしなせぇ。」
たまさぶろうは、ふところから にぼしのはいった ふくろを ははネコに わたした。
それから さんきちの ての ひらには そっと きんいろの いしを のせた。
「こ、これは!」
ながいあいだ、きびしい しゅぎょうを つんだ ネコにだけ、ネコがみさまから さずけられるという、まぼろしの ほうせき「マタタビいし」だ。
おまもりに もてば どんな ふこうも よりつかない。
ネコの せかいで、この いしの ことを しらないものは いない。
「こんな だいじなものを!」
「なあに、おやおもいの ぼうずに、ささやかな ほうび、でござんす」
「あ、ありがとうございます」
「たまさぶろうさん これから どこへ いくの?」
さんきちが さけんだ。
「さぁてな、あしの むくまま きの むくまま しがねぇ たびに でるまでだ」
「おいらも つれてって おくれよ」
たまさぶろうが いっしゅん たちどまって さんきちを ふりかえった。
ははネコが しんぱいそうに そのようすを みつめている。
「そうさなぁ、ぼうずが もっと おおきくなった ころに また えんが あれば あえる だろうよ」
それを きいて さんきちが ひとみを かがやかせた。
(さんきち、おっかさんを しっかり まもって やりなよ)
こころの なかで つぶやいて、とうげの みちを さってゆく、いきな すがたの たまさぶろう。
みおくる おっかちゃんと さんきちを、ゆうひが あかく てらしていた。