ぼくたちは夏の道で(2/12)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

なにか企みを秘める笑顔だって、ついさっき出会ったばかりのぼくでさえ、わかる。
「あの、ぼく、じつは、旅の途中でして」
「そうなのか? それなら話は早いな」
「はい?」
「住み込みに決定だ!」
「えっ?」
「えっ? っておまえ、不服なら通ってもいいんだ」
「いや、それは」
思わず、口ごもる。

かあちゃんの作ってくれたおにぎりを食べる間しか休まずに、早朝から走りに走った。
夏の陽はまだ高いとはいうものの、もう、夕刻だ。
その距離を通うのは、堪忍してほしい。
「きつい、です」
「だろ? おっと、いけない。もう、こんな時間じゃないか。さっさと、するべきことを、しよう」
猿神さんが、ぜんざいに手を伸ばす。

ぼくがどこから来たのかも、年齢も、なにも聞かずに、ぜんざいを食べる。
黙々と。
急いでいるのに、きれいな食べ方だ。
椀を持つ手の表情も、箸運びも美しい。
まるで、修行僧を見ているようだ。
がさつで、ややこしい上に面倒くさい性格だけど、黙っていると、いい人に見えてくるから不思議だ。

それに。
チャッピーに向ける視線が、優しい。
いい人でもなさそうだが、悪い人でもなさそうだ。
この人の言うように、どさくさに紛れてみるのもおもしろいかもしれない。
ぼくを選んでくれた(?)チャッピーとも、友だちになりたいし。

「ごちそうさま。幸太も、さっさと食べてしまえ。いらんのなら、ワシが食う」
猿神さんの申し出を丁寧に断って、ぬるくなったぜんざいを一気にあおる。
「さあ、幸太、出動だ」
これはおまえが着るようにと、猿神さんから、ゾンビの頭を渡される。
「練習の成果を、見せられないのは残念だが、この任務はおまえに託そう。真夏にこれをかぶるのは暑いから、いや、ワシはまだ足首が痛いからな」
猿神さんは、また、ニヤリと笑った。

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。