なにか企みを秘める笑顔だって、ついさっき出会ったばかりのぼくでさえ、わかる。
「あの、ぼく、じつは、旅の途中でして」
「そうなのか? それなら話は早いな」
「はい?」
「住み込みに決定だ!」
「えっ?」
「えっ? っておまえ、不服なら通ってもいいんだ」
「いや、それは」
思わず、口ごもる。
かあちゃんの作ってくれたおにぎりを食べる間しか休まずに、早朝から走りに走った。
夏の陽はまだ高いとはいうものの、もう、夕刻だ。
その距離を通うのは、堪忍してほしい。
「きつい、です」
「だろ? おっと、いけない。もう、こんな時間じゃないか。さっさと、するべきことを、しよう」
猿神さんが、ぜんざいに手を伸ばす。
ぼくがどこから来たのかも、年齢も、なにも聞かずに、ぜんざいを食べる。
黙々と。
急いでいるのに、きれいな食べ方だ。
椀を持つ手の表情も、箸運びも美しい。
まるで、修行僧を見ているようだ。
がさつで、ややこしい上に面倒くさい性格だけど、黙っていると、いい人に見えてくるから不思議だ。
それに。
チャッピーに向ける視線が、優しい。
いい人でもなさそうだが、悪い人でもなさそうだ。
この人の言うように、どさくさに紛れてみるのもおもしろいかもしれない。
ぼくを選んでくれた(?)チャッピーとも、友だちになりたいし。
「ごちそうさま。幸太も、さっさと食べてしまえ。いらんのなら、ワシが食う」
猿神さんの申し出を丁寧に断って、ぬるくなったぜんざいを一気にあおる。
「さあ、幸太、出動だ」
これはおまえが着るようにと、猿神さんから、ゾンビの頭を渡される。
「練習の成果を、見せられないのは残念だが、この任務はおまえに託そう。真夏にこれをかぶるのは暑いから、いや、ワシはまだ足首が痛いからな」
猿神さんは、また、ニヤリと笑った。