猿神さんは、依頼主に出してもらった冷たい麦茶を飲みながら、膝に乗せたチャッピーとたわむれている。
黒岩さんとぼくは、額に汗して夏草を刈っていく。
そして。
仕事を終えた帰り道、突然に。
ちび夏に、会いたい。
そんな想いが押し寄せてきた。
チャッピーやパピと、親しくなったからだろうか。
うん、それも、ある。
けど、でも、しかし。
「猫は人の何倍も早く年をとる」
黒岩さんの言葉が、心に引っかかったから。
猫時間と人時間の違いなんて、いままで考えたことなかってけど、ぼくのちび夏は、今年、8歳だ。
大丈夫だろうか?
元気でいるのだろうか?
早く、ちび夏に会いたい!!!
ああ、ちび夏、ちび夏、ちび夏、ちび夏。
たまらずに、ポケットから写真を取り出す。
去年、ぼくが撮った写真だ。
陽だまりの中、かわいいちび夏は、あおむけでけだまをとっている。
「なんだ、それ、トドか?」
ぼくの手から、写真をかすめ取った猿神さんが、運転席に突き出した。
「先輩、縁側にいますから、水生生物ではありませんよ。タヌキかなんかじゃないですか?」
「トドでもタヌキでもありません!」
「わかってるよ、幸太くん。ちび夏、だろ?」
「・・・はい」
「幸太くん、そんなに会いたいのなら、会いに行けばいい」
「はい! いえ、でも、黒岩さん、ぼくは、助手2号を引き受けてしまった
ので。・・・どさくさに紛れてですが」
「ああ、でも、それ、輝くんの代わりだろ?」
「はい」
「大丈夫。彼、明日の夜には帰ってくるから。それまでは、ぼくが先輩のお守りをしておくよ」
「って、黒岩さん、仕事は? 今日も早出じゃなかったんですか?」
「*************」
「えっ、聞こえませんよ、黒岩さん」
「じつは、先輩には内緒だが、3日間夏休みを取ってるんだ・・・」
「そうだったんですか」
チャッピーや黒岩さんとの別れはさみしいけれど・・・。
山野辺さんやパピにも、後ろ髪を引かれるけれど・・・。
猿神さんの良さみたいなものが、垣間見えてはきたけれど・・・。
「では、明日の朝、湖水村に向かいます!」