ぼくたちは夏の道で(12/12)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

猿神さんは、依頼主に出してもらった冷たい麦茶を飲みながら、膝に乗せたチャッピーとたわむれている。
黒岩さんとぼくは、額に汗して夏草を刈っていく。

そして。
仕事を終えた帰り道、突然に。
ちび夏に、会いたい。
そんな想いが押し寄せてきた。
チャッピーやパピと、親しくなったからだろうか。
うん、それも、ある。
けど、でも、しかし。
「猫は人の何倍も早く年をとる」
黒岩さんの言葉が、心に引っかかったから。
猫時間と人時間の違いなんて、いままで考えたことなかってけど、ぼくのちび夏は、今年、8歳だ。
大丈夫だろうか?
元気でいるのだろうか?
早く、ちび夏に会いたい!!!
ああ、ちび夏、ちび夏、ちび夏、ちび夏。

たまらずに、ポケットから写真を取り出す。
去年、ぼくが撮った写真だ。
陽だまりの中、かわいいちび夏は、あおむけでけだまをとっている。

「なんだ、それ、トドか?」
ぼくの手から、写真をかすめ取った猿神さんが、運転席に突き出した。
「先輩、縁側にいますから、水生生物ではありませんよ。タヌキかなんかじゃないですか?」
「トドでもタヌキでもありません!」
「わかってるよ、幸太くん。ちび夏、だろ?」
「・・・はい」

「幸太くん、そんなに会いたいのなら、会いに行けばいい」
「はい! いえ、でも、黒岩さん、ぼくは、助手2号を引き受けてしまった
ので。・・・どさくさに紛れてですが」
「ああ、でも、それ、輝くんの代わりだろ?」
「はい」

「大丈夫。彼、明日の夜には帰ってくるから。それまでは、ぼくが先輩のお守りをしておくよ」
「って、黒岩さん、仕事は? 今日も早出じゃなかったんですか?」
「*************」
「えっ、聞こえませんよ、黒岩さん」
「じつは、先輩には内緒だが、3日間夏休みを取ってるんだ・・・」
「そうだったんですか」

チャッピーや黒岩さんとの別れはさみしいけれど・・・。
山野辺さんやパピにも、後ろ髪を引かれるけれど・・・。
猿神さんの良さみたいなものが、垣間見えてはきたけれど・・・。

「では、明日の朝、湖水村に向かいます!」

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。