ぼくたちは夏の道で(12/12)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

たった2日の付き合いなのに、猿神さんと黒岩さん、ふたりは送別会をしてくれた。
「幸太、おまえには記念に、黒岩、おまえは、ワシをだました罰に、スペシャルなラーメンをご馳走してやろう」
ふいっ、ふいっ、ふいっ、と猿神さんがほくそ笑む。

「猿神さん、記念と罰が同列なんて、ぼく、意味がわかりません」
「先輩、ぼくのひそひそ話、聞いていたんですか・・・。まったくもって人が悪い・・・」
ぼくたちの抗議には耳もかさないで、猿神さんは、黒い電話のダイヤルを回す。
「ふくふく亭か? 猿神だ。・・・そうそう、ふくふく絶品味噌ラーメン野菜乗せを2人分、持ってきてくれ。ああ、ワシには、福来さんが晩飯用に買ってきているハンバーガーをひとつわけてくれ」

そのラーメンの味を、ぼくは、たぶん一生、忘れない。
朝になっても、舌に、まずさがしみついている。
猿神さんに、別れのあいさつを、ついでに文句も言わせてもらおう。
そう思い、捜すが、姿は見えなかった。

「幸太くん、もう、発つのか?」
「はい。ですが、猿神さんにお別れを・・・」
「先輩は、人を見送るのが苦手なんだ」
黒岩さんが、教えてくれた。
「またいつか、ラーメンを食べにこい」
「えっ?」
「猿神先輩からの伝言だよ」
「うっ・・・、えっ・・・、でも・・・、はいっ!」

「エエエエッ、なぁご」
チャッピーが、頭を寄せて別れのあいさつをしてくれる。
短い尻尾をピコンと振って、ちょこんとすわる。
見送ってくれてるんだね、ありがとう。
そんな姿を見ていたら、困ったな、もうちょっと一緒にいたくなってくる。
でも、もう、行くね・・・。
「猿神さんに、よろしく!」

さよなら、チャッピー。
さよなら、黒岩さん。
そして、猿神さん。
また、いつか!

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。