2日間、待っていてくれた相棒、コバルトブルーのマウンテンバイクにまたがって、ぼくは、ペダルに足をかける。
左足に、ぐっと力を入れる。
光射す、朝の道へと進みだす。
猿神家をぐるりと囲む黒い板塀が、とぎれた先の角を、ゆっくりと曲がる。
電信柱が立っている。
「えっ!」
そして、そこには・・・。
白いシャツに、紺のスカート。
ショートカットの美形女子。
白い猫を抱いている。
ぼくは、ギッとブレーキを握る。
「や、山野辺さん、また爆睡中ですか?」
「バカか、きみは。よーく見てみろ。わたしは、ちゃんと、29のわたしだ。髪を切ってみただけだ」
「そう言えば・・・」
「ふけたとかは、言うなよ」
「はい」
「金太から連絡をもらって、」
「見送りに、きてくれた・・・」
だめだ、泣きそうになってきた。
「如月くん、いや、如月幸太」
「はい」
「ありがとう!」
「いえ」
「きみに会えて、よかったよ!」
「・・・・・・・・・」
「またな!」
「はい!」
さよなら、山野辺さん。
さよなら、パピ。
また、いつか!
ペダルをグイグイこいでから、こぶしをぐいっと突き上げる。
さよなら、高校生の山野辺さん。
ああ・・・。
ゾンビのかぶりもの、もらってくればよかった。
いや、お多福さんの方が・・・。
こぶしで、涙、ぐいっと拭う。
にじんだ道が、クリアになった。
ぼくたちが出会った、夏の道。
目の前に伸びる、夏の道。
ふり返ることなく、
湖水村に向かって、
ちび夏に向かって、
ぼくは、相棒と、
風になる。