待機テントの中は、混とんとしている。
着ぐるみの(だと思ったら自前の脂肪で衣装を膨らませている)妖精、青い耳のない猫、赤い大きなリボンのネズミ、緑の服を着た永遠の少年を演じているご老人。
坂本龍馬、新選組、ゴジラ、桃太郎、遠山の金さん、のっぺらぼう、皿屋敷のお菊さん。
季節外れのカボチャのお化けに、ぼくと同じゾンビも。
それに、どこもかしこもぼくの目を釘付けにしてしまう衣装を着けた、ボリューミィなサンバ娘たち。
熱気みなぎるばけもの屋敷のような、クラクラしそうな光景だ。
サンバのリズムが流れ出す。
サンバ娘が飛び出していく。
妖怪たちが、妖精たちが、時代を越えて来た人たちや、おとぎの国の住人が、リズムに乗って、あるいは乗り切れないままに、後に続く。
ぼくも、跳ねたり、のたうったりで、ついていく。
長いような短いような、苦しいような楽しいような、そんな気分の1時間を終え、ぼくは、汗だく、くたくただ。
テントの中でへたっていると、猿神さんが迎えに来てくれた。
「腹へっただろう」
「はい」
「ついて来い。飯にしよう」
「はい」
ゾンビの頭を抱え、チャッピーを抱いた猿神さんと並んで歩く。
「報酬は、ふくふく亭で、ふくふく絶品味噌ラーメン野菜炒め乗せでどうだ?」
おいしそうな響きに、腹の虫が鳴く。
「はい。ありがとうございます」
「あっ・・・」
「はい?」
「これを買ってしまったから、金が足りない」
ほら、と頭部に上げていた、お面をかぶる。
「お多福さん、とは・・・」
「いい顔だろう? チャッピーにせがまれたら、嫌とは言えん」
だろ? って、チャッピー、きみは、ほんとうに、せがんだの?
視線を合わせ、心の中で聞いてみる。
と、チャッピーは、いえいえ、この人の思い込みですから、とでも言うよ
うにそっと視線を外した。ように、ぼくには、見えた。
チャッピーは、いつから猿神さんと一緒にいるのかは知らないが、愛情は激しくそそがれてはいるようだが、気苦労はたえないのだろうな。
「・・・もし、チャッピーにせがまれたとしたら、ほんとうに、チャッピーがせがんだのだとしたら、ぼくも、嫌とは言えないかもしれません。ラーメンはいいですから、帰りませんか?」
「幸太、おまえはうれしいことを言う。ふくふく絶品味噌ラーメン野菜炒め乗せは別の機会にしよう。きょうの報酬は、一番マシなふくふく細麺つるつるしこしこラーメンだ」
「でも、お金がないんじゃ」
「大丈夫だ。あてはある!」