ほんとうに、あてなど、あるのだろうか?
駅前広場を後にしたぼくたちは、山道を歩いて登っている。
車の通れない細い道だ。
「暑苦しくなるが、背に腹は代えられん」
虫を防ぐためだと、猿神さんはチャッピーを首にかけていたタオルにくるみ、頭に上げていたお面を下ろす。ぼくもゾンビの頭を、かぶった。
そして。
先導するのは、ぼく。
「山道は、なにが飛び出してくるかわからん。チャッピーを危険な目には合わせられない」
だろ? と言われたら、しょうがない。
危険は、ぼくが、払います!
「長い付き合いだ。ワシは、黒岩の習性を知りつくしている」
うしろから、猿神さんが話しかけてくる。
盾にされてはいるものの、暗い山道で、うしろにだれかがいるのは、安心する。
「はい?」
「奴は、展望台にいるにちがいない」
「展望台、ですか?」
「隠れた花火スッポットだ」
「わっ、花火! いまから、あがるんですか? ぼく、花火、大好きなんです!」
「そうか、よかったな。って、人の話の腰を、」
「また、ぼく、折ったんですね・・・」
「夏祭りの花火の夜、ワシにゾンビの役を押し付けてまで、もちろん、報酬は払わせるが、それをいま、集金にいくのだが、奴のすることは、デートに決まっている。そして、デートの後に、行く場所も、決まっている」
「デートって、それなら、おじゃましないほうがいいと思います」
「幸太、その件に関しては心配無用だ。さっさと歩け!」