「黒岩さん、ラブちゃんを、じゃない、車を止めてもらえますか?」
頼んでみたけど、猿神さんとナビ論展開中の黒岩さんに、ぼくの声は届かない。
しかたなく、ぼくは、声を張り上げる。
「く~ろ~い~わ~さーーーーんーーー!」
「は~い、こちらく~ろ~い~わ~、どうかした?」
「あの、車を止めてもらえますか?」
ふたたび、頼む。
しかし、繰り返したぼくの言葉は、ふたりに同時に打ち返された。
「もう、止ってるよ」
「目的地だ!」
って、さすが周辺からは、近いんだ。
気がつけば、車は、門をくぐり、玄関の脇につけられている。
急いで、車から、降りる。
「では、行ってきます!」
夜のひとり歩きは、得意じゃない。
けど、でも、しかし。
ぼくは、なにが、気になったのか?
確かめずには、いられない。
「幸太、行ってきますじゃなくて、ただいま! だろうが」
猿神さんが、じろりと睨む。
「ですよね、先輩。ただいま!」
黒岩さんが、うんうんと、うなづく。
「黒岩、おまえは、さよなら、でいい」
「そんなー、先輩、ぼくをひとりにするんですかー?」
「って、おまえ、帰らないのか?」
「帰らないに、決まってるじゃないですかー」
猿神さんと黒岩さんが、言葉を投げ合っているうちに、ぼくは、そっと、門を出た。