そして、部屋を出ようとしたときだった。
お父さんのつくえの上に、写真立てを見つけたくるみは「あっ」と声をあげた。前はリビングにかざってあったものだ。
「エルと・・・、みんなだ」
写真の中で、家族みんなが笑っていた。
「お父さん、お母さん、くるみ、エル」
おさないくるみはぎゅっとエルの首にしがみついていた。エルもすこし口をあけて笑っているような顔で写っている。
「ソラと、やっぱりちょっとにてるかも」
泣きたいような気持ちになって、熱心に写真を見ていたくるみは、だれかが近づいてくる気配に気づかなかった。ガチャっと音がして、くるみがおどろいてふり返ると、そこにはお父さんが立っていた。
「くるみ、なにしてる」
「あっ、えっと。あの、絵をかこうと思って。犬の・・・。図鑑をさがしてたの」
「そうか。でも、勝手に入るのはよくなかったな」
「うん。お父さん、ごめんなさい」
「くるみ、写真を見てたのか?」
くるみのにぎっている写真立てを見て、お父さんはおだやかな声でたずねた。
「ちょっと、なつかしくなっただけ」
それだけいうと、急いでくるみは部屋を出た。
その日くるみが見たゆめは、どこか遠くの草原で、エルにボールを投げて遊ぶゆめだった。くるみとエルの楽しそうな様子を、そばでさみしそうに見ているソラがいた。