エルとくるみとソラ(4/7)

文・七ツ樹七香  

そして、部屋を出ようとしたときだった。
お父さんのつくえの上に、写真立てを見つけたくるみは「あっ」と声をあげた。前はリビングにかざってあったものだ。
「エルと・・・、みんなだ」

写真の中で、家族みんなが笑っていた。
「お父さん、お母さん、くるみ、エル」
おさないくるみはぎゅっとエルの首にしがみついていた。エルもすこし口をあけて笑っているような顔で写っている。

「ソラと、やっぱりちょっとにてるかも」
泣きたいような気持ちになって、熱心に写真を見ていたくるみは、だれかが近づいてくる気配に気づかなかった。ガチャっと音がして、くるみがおどろいてふり返ると、そこにはお父さんが立っていた。

「くるみ、なにしてる」
「あっ、えっと。あの、絵をかこうと思って。犬の・・・。図鑑をさがしてたの」
「そうか。でも、勝手に入るのはよくなかったな」
「うん。お父さん、ごめんなさい」
「くるみ、写真を見てたのか?」

くるみのにぎっている写真立てを見て、お父さんはおだやかな声でたずねた。
「ちょっと、なつかしくなっただけ」
それだけいうと、急いでくるみは部屋を出た。

その日くるみが見たゆめは、どこか遠くの草原で、エルにボールを投げて遊ぶゆめだった。くるみとエルの楽しそうな様子を、そばでさみしそうに見ているソラがいた。

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県出身。「ピイのとんだ空」で第30回日本動物児童文学賞優秀賞。 「ラスト・オテモヤン」で第41回熊本県民文芸賞小説部門一席を受賞。熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、第1回西の正倉院みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞大賞、第16回深大寺恋物語 調布市長賞など。 共著に『謎解きホームルーム2』『恐怖文庫』『感動文庫』(いずれも新星出版社)動物が好き。犬と小鳥と暮らしている。