みるみるうちに顔をくもらせていくくるみに、静かな声でお父さんは言った。
「くるみは、前は犬のことを好きだったね。図鑑だってすみからすみまで覚えてしまうぐらいに。エルの気持ちをりかいしようと、くるみが勉強していたのを知っているよ。ソラも本当はきらわれていないんじゃないかと思っているから、くるみと仲良くしたがったんだ」
カシャとフローリングを引っかく爪の音が聞こえた。くるみがふり返ると、とびらのはしからソラが顔を出しているのが見えた。あらそいの気配を聞きつけて、ソラはひなたぼっこをちゅうだんしたらしかった。
心配そうな顔を見て、くるみはまた胸がいたくなる。
「くるみ、今は2週間のお試し期間なんだ。もしこの家になじめないとはんだんしたら、ソラはまた別の家に行くんだよ」
「・・・・・・」
くるみがなにも言えないでいると、ソラはトコトコとよってきて、くるみとお父さんのあいだに割りこんで、ちょこんとおすわりをした。こまったように見上げてくるソラに「だいじょうぶだよ」とお父さんは声をかける。
「くるみ、お父さんは聞きたいことがあるんだ」
「なに?」
「くるみはエルのことで、たくさん悲しみや苦しい気持ちが残っているんだと思う。そうだよな?」
「エルは関係ない」
フイッと顔をそむけてリビングにもどろうとしたくるみの手を、お父さんはしっかりとつかんで引き止めた。