オニの忘れた子守歌(1/6)

文・伊藤由美   絵・岩本朋子

むかし、みちのくの山間の村に、おまつという女が、年老いたばあさまと、小糸という、四つになる娘と暮らしていました。
家は貧しく、ねこの額ほどの地面があるばかり。
おまつは働きづめに働いて、女手ひとつで、暮らしを支えていました。

日の出から野良に出て、おまつは、一生けん命、働きました。
そして、一番星が見えるころ、やっと、重い足をひきずって、わが家へと向かいます。
その時分になると、幼い小糸はばあさまといっしょに、夕陽におされて、くたびれて、それでもせいいっぱいの急ぎ足で帰ってくる母親を、家の前で待っていました。

かたむいたわらぶき屋の下、こしの曲がったばあさまのそばに、小さな女の子のすがたを見つけると、おまつの心ははずみます。
1日のつかれも、つらさも、いっぺんに吹き飛んで、おまつは走ります。
小糸も、ばあさまの手をはなれて、小鳥のようにかけて来ます。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

岩本朋子 について

福井県福井市出身。同市在住。大阪芸術大学芸術学部美術家卒。創作工房伽藍を主催。伽藍堂のように何も無いところから有を生むことをコンセプトでとして、キモノの柄作りからカラープランニング等、日本の伝統的意匠とコンテンポラリーな日用品(漆器、眼鏡、和紙製品等)とのコラボレーションを扱い、オリジナルでクオリティーの高いものづくりを心掛けている。また、高校非常勤講師として教えるかたわら、福井県立美術館「実技基礎講座」講師を勤める。