「ほんに、おっかねえオニだごだ! あんな強えおさむらい方ば、ぞうさもなく、負かしてよ!」
人々は、みな、頭をかかえました
「どうだべ、もういっぺん、お殿様にお願えしてみだら?」
「だめだ、だめだ!」
庄兵衛は頭をふりました。
「朝方、おさむらい方の形見ば届けるべと、お城さ出向いたら、ご家来衆の最後ば聞いて、お殿様が、どんだけ、ごっしゃいだことか! お手打ちにあうんでねべかと思ったほどだ。
『もう、お前たちの村のことは知らぬ。オニなどと、たわけを言いおって! さしずめ、サルでも、見まちがえたのであろう! マタギにでもたのめ!』
とおおせだ」
「サルなんかでねえ! おらが見ちがうわけ、ねえべ!」
マタギの五平はおよびごしです。
この時、その場で一番の年寄りが言いました。
「どうだべ、吉野山の行者さまにお願いするっつのは?」
みなは顔を見合わせました。
「吉野山の行者さまだあ!?」
「そういや、修業、積んだ行者様は、空も飛べるっつうぞ」
「んだ。オニっこ、家来にして、引っぱって歩くっつ話だ。行者様にたのんでみっぺし」
「んだ、んだ。名主様、そうすべし!」
村人の顔は明るくなりましたが、すぐに、
「んでも、吉野は、京の都よりも、まだ遠いっつでねか?片道だけでも、20日以上はかかるべよ?」
と、心配の声が上がりました。