サワガニの理容室(6/6)

文・ねこはるさめ  

「ハリネズミさんのきんちょうをほぐしたまでのこと。心がほぐれれば、しぜんに体もほぐれるものです」
「ああ、ありがとう。心がこんなに晴れやかになったのははじめてです」
ハリネズミはなみだを流しながらサワガニにお礼を言いました。

「ぼくはさみしんぼうの森を出て、友だちをさがす旅に出ようと思います」
「なら、わたしが友だち第一号ですね」
ハリネズミがおどろいた顔をします。

「あら、ちがいましたか?」
「ちがいません! ちがいません!」
ハリネズミはなみだをぬぐうと、「また、ここに来ます」とやくそくしました。
「はい、おきゃくさまとしてだけでなく、ぜひおいしい紅茶を飲みに来てください」
「かならず!」
そうしてハリネズミは理容室をあとにしました。

サワガニは、小さくなってゆくハリネズミのまき毛のせなかを、いつまでもいつまでもながめていました。

「ハリネズミさんなら大丈夫」
サワガニはつぶやくようにはげまします。
「きっと、たくさんの友だちができますよ」

ねこはるさめ について

和歌山県出身。ボランティアでオリジナル童話の読み聞かせ活動をしています。それ以外にも、少し大人びた児童文学テイストな作品を創作。人がいだき育む幻想を紡いだ短編を好んで書きます。 ホームページ:滑空舎 http://kakkusha.sakura.ne.jp/media/