ステルスおばあちゃん(3/8)

文・伊藤由美   絵・伊藤耀

3 正義のステルスおばあちゃん

空の散歩はいい気持ち。
「もう、えんりょはいらないわ。私のすがたは、だれにも見えないんだもの」
見慣れた町も、上空からだと、まるでちがって見えます。

「あっちの屋根は古風な三州がわら。さすがに品があるわね。こっちは太陽光パネル。エコを考えているのね。感心だわ。それに比べると、コンクリートは味気ないわねえ。あら、でも、屋上ガーデンがある! ちょっと、下りてみようかしら」
だめだめ、勝手におりちゃ!
ふと、ハツさんは、一けんの家のベランダに、カラスがとまり、しきりに、おじぎをしているのを見ました。

「ああやって、カラスがおじぎをしている時は、きっと、何かをねらっているんですよ」
ハツさんは、そっと、観察します。すると、案の定、カラスは、何かを取って、さっと、まい上がりました。
「あ、あれは、針金のハンガー! 巣づくりの材料にするつもりね! そうはいくものですか!」

ハツさんは、空中でカラスを待ちぶせて、ハンガーを、ガッチリ、つかみました。
カラスはびっくり! 何もない所で、くわえていたハンガーが、バキッと、固まってしまったのですから。
「ガワッ!?」
いきおいあまったカラスは、口ばしの先で、ハンガーの周りを半回転し、それから、バサッと、空中に投げ出されて、「カカカ、カア!」っと、にげて行きます。

「正義のステルスおばあちゃんにかなうと思う!?」
ハツさんは、くすくす、笑って、ハンガーを、ベランダに返しましたが、その後も、しきりに、くすくすしています。何か、いいことを思いつたのです。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに