ステルスおばあちゃん(4/8)

文・伊藤由美   絵・伊藤耀

でも、間もなく、ハツさんは、またもや、ため息になりました。
「ああ、たいくつ。もっと、大事件は起こらないものかしら」
「事件ですか? 事件といえば、このごろ、このあたりで、変な事件が起こっているみたいですよ」
新聞を広げていたコスモ博士が言いました。

「あちこちで、マシュマロだけをねらうどろぼうが出ているそうです」
「マシュマロどろぼう?」
「ええ。変でしょう。ほかには、何もとらずに、マシュマロだけが、人の家や、お店から消えるんだそうですよ」
ハツさんの目がかがやきました。

「それはひどいわね。よろしい。私が、きっと、つかまえてやるわ!」
その日から、ステルスおばあちゃんの張り込みが始まりました。
「きっと、お菓子屋さんに現れるわ。それも、とびきり、おいしいマシュマロのあるお店に!」
ハツさんは、町一番のお菓子屋の、店員のとなりにじんどりました。もちろん、すがたをかくして。
お店の名前は「マシュマロの夢」。ピカピカのショーケースをのぞけば、おいしそうなケーキやクッキーといっしょに、雨上がりのにじをねじ切って丸めたような、色とりどりのマシュマロが並んでいます。

「本当に、夢のようねえ」
ハツさんは、うっとりです。
「ううん、あまい、いいにおい! もう、どろぼうなんて、どうでもいいから、買って帰って、食べようかしら」
何度、そんな思いをがまんしたことか!
そうやって、何日か、過ぎたころ、とうとう、目の前で、マシュマロが、ひとりでに、ショーケースから出て、すうっと、空中に消えました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに