ハツさんが正気にもどったのは、この時です。
「あら、多田さん、私にも紅茶を入れてちょうだいな」
コスモ博士は飛び上がりました。
「いったい、どこへ行っていたんですか、母さん!? すごく心配していたんですよ!」
「キエール星ですよ」
「キエール星ですって!?」
コスモ博士と多田君は、顔を見合わせました。
「ええ。ミエンダーさんが、分かれ際に、『本当にキエール星に来てみたいですか? それなら、もっと、軽くならなくちゃ』と言ってね、ふくろいっぱいの風船ガムをくれたの。
私、せっせと、風船をふくらませたの。1つ、ふくらませると、1つ、何かを忘れたわ。もう1つ、ふくらませると、もう1つ。子供のころのこと、両親のこと、ナユタさんやおまえのこと・・・。そうやって、私は、どんどん、軽くなっていったの」
「それで、最後の1つをふくらませながら、スタングラのスイッチを入れたんですね。それを合図にワープドアが開くよう、ミエンダーさんが仕かけて行ったんだ!」
「気が付くと、私はキエール星にいたわ! ああ、言葉にならないほど、すばらしい所だった・・・ように思う」
ハツさんは、幸せそうに、ため息をつきました。
「私は、そこに、しばらく、いたと思うの。でも、今は、何も覚えていないのよ。帰りのワープドアをくぐる時、ほとんどの思い出は置いてこなくちゃならなかったから。ただね」
「ただ、何ですか、母さん?」
「ミエンダーさんのとなりで、望遠鏡をのぞいたことだけは、はっきり、覚えているの。夜空をおおう真っ白な銀河! そのはしっこでかがやく、美しい、青い星! そして、そのそばにね、私は見つけたのよ、オレンジ色に光る小さな星、私たちの太陽を! その時に感じた、とてもなつかしい、いとしい気持ちだけが、ここに持って帰れたものなの」