4年生からはじめた部活のミニバスケットボールも、年明けには引退だ。引退するとすぐに、中学生から入れる地元のバスケットチーム、弥生(やよい)ウイングスの入団テストがある。自然と、部内の紅白戦にも熱が入る。
「陽太(ようた)!」
フリースローライン手前で、淳(じゅん)の前に出た陽太に、白組の仲間からボールが渡った。
残り時間30秒を切って、試合は47対46。キャプテンの淳(じゅん)が率いる紅組が、わずかにリードしている。
陽太は、ちらっと周囲を見た。ゴール下に大柄の浩司(こうじ)が、ぬぼっと立っていた。
(あの位置なら浩二にパスしても・・・。でも、シュート打つなら、おれの方が確実だ)
陽太は、ボールを受け取ると、淳の体のわきを、ワンドリブルですりぬけた。目の前が開ける。正面に、ゴールが見えた。
(よし、行ける!)
陽太は、足のばねを使って、思いっきり上へ飛んだ。
「行け、逆転シューット!」
味方の声に後押しされるように、頭上のゴールめがけて、ボールを放った。
だが、ボールは、陽太の手をはなれたとたん、壁のような影から放たれた手で、地面に叩き落とされた。淳だった。
会場から、ため息と歓声があがる。
「リバウンド―ッ!」
コートわきから聞こえた声に、陽太は、地面におりるとすぐ、自由になったボールを追った。
だが、ボールはすでに、紅組に渡っていた。
そのとき、試合終了のホイッスルが会場にひびいた。紅組の勝利だった。
「ナイスシュートだったのに、おしかったな」
「どんまい」
肩を叩く浩司たちの声が、空しく胸をすりぬけていく。
最後のシュートをはばまれたくやしさがぬぐえず、陽太は、なかなか顔をあげられない。
「やっぱ、バスケはタッパ(身長)だよな」
淳が自信に満ちた声で話しながら、紅組のメンバーと肩を抱き合い、集合をかけた。
「浩司、おまえ、もっと積極的にボール取りにいけよな! アキオは、フェイクに惑わされ過ぎだし、ダッシュが遅い。それから・・・」
淳の、キャプテンとしてのダメ出しがつづいている。
「陽太は、ラストシュート惜しかったな。おれが飛んでなかったら入ってたと思う。でも、あの場合は、浩司にパスする手もあったぞ」
「バスケは身長」の言葉が、陽太の心にじわじわとしみ込んでいく。
(弥生ウイングス、落ちたらどうしよう・・・)
言葉が鉛(なまり)のように、陽太の中に、ずしんと居すわった。