<その3>
ゆらり、ゆらり。
右へ、左へ。チャン小熊ねずみのしせんはゆらゆらとバスの中をさまよいました。
アナグマのお母さんと目が合いました。アナグマのお母さんはピンとのりのきいたぼうしのつばの下ではなにしわを寄せ、歯をむき出してチャン小熊ねずみを見ていました。
こんな顔をしているからといって、アナグマのお母さんはけっしていじが悪いのではありません。
お母さんは三びきの大切な子どもたちをスズランびょういんのけんしんにつれて行こうと、昨日のばんからじゅんびしていました。
今朝も早くからおきて、むずかる子どもたちをかかえて、どうにかこうにかバスにのせてやって来たのです。
子どもたちのために、何が何でもけんしんの時間に間に合いたいのです。
それなのにチャン小熊ねずみのせいでバスがおくれてしまったら、けんしんに間に合わなくなってしまいます。
「早くやめて。みんなをこまらせないで」
アナグマのお母さんは、はっきりとチャン小熊ねずみを見すえて言いました。
それはそれはあらがえないひとみでした。
「はい」
チャン小熊ねずみはボールつきをやめて、うんてんしゅさんとつうろをはさんだとなりの席にすわりました。
「よーし! チャン小熊ねずみ君、君は聞き分けが良いぞ。感心だ」
ヤマネのおじさんが両手でメガホンを作り、さけびました。
「しゅっぱーつ、進行!」
イノシシのうんてんしゅさんはホッとした顔をしてとびらを閉め、バスをはっしゃさせました。