「ただいま。おなかすいたでしょう」
ドアが開く音と同時に聞こえた声に、結那(ゆいな)の顔がほうっとゆるみました。
お母さんが帰ってきたのです。
「ごめんね、今日お店こんでてね」
お母さんの仕事は、いつもは13時半に終わります。
ですのでお母さんは、小学校三年生の結那より、早く帰ってきます。
しかし今日は、お客さんが多かったのでしょう。時計は、15時40分を指しています。
結那は、秘密の場所にあるカギで家に入り、ひとりでお母さんの帰りを待っていました。
「大丈夫だよ。給食食べたから」
にっこり笑った結那のおなかが、ぐうっと音を立てました。
「もう。がまんしないでいいのよ」
お母さんは結那の頭をなでると、持っていた袋を開けました。
中には、少し形のくずれたクマやパンダのパンが入っています。
クマのパンは、はちみつ味、パンダの顔の中身は、あんこです。