ああ、ほのちゃんがいっしょうけんめいかきまぜて食べてくれれば、こんなになやまなくてよかったのになあ。
ほのちゃんのことをうらめしくおもいながらもっと歩いていくと、どこからか声がした。
「ちぇ、いやになっちゃうよ、まったく」
上を見ると、大きな虫が木にしがみついてぶつぶついっている。黒いからだに長い足。たしかこれはクモだ。
ぼくはまためいわくがられるかもしれないとおもったけれど、がまんできずに声をかけた。
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたも、タカのやつが小鳥を追いかけておれのすにぶつかったのさ。おかげで、ひとばんかけて作ったばかりのすがめちゃくちゃだ」
たしかに木から糸のようなものがたれさがって、ふわんふわんと風にふかれている。
「それはお気のどく」
そういってから、ぼくは糸に手をのばしてさわってみた。
「おや、ずいぶんねばりけがあるね、ぼくの糸みたいだ」
「え、おまえさん糸だすの?」
「まあね」
ぼくがこたえたとたん、クモの目がやわらかくなった。