「おまえさんは世の中のことをなんにも知らないんだな。おれの家がベタベタしているのは、えものをとるためじゃないか」
じゃあ、じゃあぼくのせいでこの子はつかまり、そして友だちのモックに・・・。
ぼくは食べられるのこわくないけど、この子はそうじゃないみたいだ。
だってこんなにからだをふるわせて泣いているもの。
次のしゅんかん、ぼくは糸をぷちぷち切り始めていた。からだが自由になったチョウはぼくをにらみつけると、ひらひらと暗い空にとんでいった。
「おい、なにするんだ!」
さっきまでやさしかったモックがぼくにつめよった。今までぼくが見た中で一ばん、虫のいどころがわるい目をしていた。
ぼくはゆうきを出していった。
「きみにはわるいけど、ぼくの糸でだれかをこわがらせたりするのは、いやなんだ」
モックはくるりとうしろをむくと、はきすてるようにいった。
「ああ、そうかい。おまえさんは、とんだじゃまものだったんだな。早くここから出て行ってくれ。すをつくるんだから」
(つくれるんじゃないか・・・)
ぼくはまたとぼとぼと森の中を歩きはじめた。