ピイの飛んだ空(3/8)

文・七ツ樹七香  

こうなったら、もう秋斗(あきと)と父の勝利だった。
しかし、ことは一刻(いっこく)を争った。
父の力を借りて、秋斗はヒナのレスキュー体制を整えることにした。まずは500mlのペットボトルにお湯を入れてタオルでくるんだ。これで湯たんぽがわりになるらしい。夏ではあるけれど、こんな毛も生えていないようなスズメが生きのびるには、温度を上げてやらなければ命取りになるらしかった。

次に、ホームセンターが秋斗の味方になった。野鳥を育てるのに使うすり餌という飼料は、そこに売っているらしい。
「お父さん、早く! 急いで!」
「お前そう言ったってなあ、警察(けいさつ)につかまったら急ぐもなにもないんだぞ」
運転手をせかしながら、秋斗は気が気じゃなかった。小鳥のヒナはほんの数時間の放置で死んでしまうことだってあるという。あのちいさな生き物は、いったいどれくらいひとりでいたのだろう。

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県出身。「ピイのとんだ空」で第30回日本動物児童文学賞優秀賞。 「ラスト・オテモヤン」で第41回熊本県民文芸賞小説部門一席を受賞。熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、第1回西の正倉院みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞大賞、第16回深大寺恋物語 調布市長賞など。 共著に『謎解きホームルーム2』『恐怖文庫』『感動文庫』(いずれも新星出版社)動物が好き。犬と小鳥と暮らしている。