「お父さんが見つけてから何時間たってるの?」
「確か昼前に事務員さんが見つけて、それで仕事が終わるまで・・・5〜6時間じゃないか?」
「そんなに?」
息子の非難(ひなん)の声に、お父さんは少し気弱に返事した。
「いやほら、父さんも仕事が」
「いいから早く!」
「お前、聞いといてそれか?」
あのスズメのヒナは、お父さんの会社のしき地に落ちていたのだという。
巣のあった古い雨どいは取りはずされることになっていて、大工がひと仕事してかたづけ終わったころには、このヒナの帰る場所はきれいさっぱりなくなってしまったのだそうだ。
「それで、お母さんにどうしたらいいって聞いて、箱に入れて近くに置いておけっていうからそうしたけど・・・、てんで親スズメも来ないし日もくれるしでなぁ」
「お母さん、冷たいね。動物好きってウソなんじゃない?」
「いや、秋斗。気持ちはわかるが、その考えはよくない。・・・おかしいことは言ってないんだよ。お母さんは。お父さんも今日の夜をこせたら、明日もう一回会社に持って行って、親が来ないか見てみるよ」
「ええー? ・・・うん」
秋斗は家で育てることにすればいいのにと思いながら、しぶしぶうなずいた。
「わかった、じゃあ今日の夜はオレが守る」
「へえ、たのもしいな。スズメの母デビューだな」
父より先に母になるとはなあ、なにやらうれしそうにつぶやく父に、もう一度「急いで」と声をかけた。
かたい決意が秋斗の中で赤々と燃えていた。
おそるおそるふれたあの生き物のあたたかさを、もう一度自分の指先を見つめて思い起こす。
守ってやるんだ。
秋斗は強くそう思っていた。