すり餌を手に帰宅した秋斗(あきと)がしつこくねだると、お母さんはしぶしぶといった様子で、ちいさなすり鉢と小鳥の給餌(きゅうじ)用の器具を出してくれた。前に飼っていた文鳥用の道具だという。そのすり鉢にエサの粉と、人はだよりちょっと熱いぐらいのお湯を入れてかき混ぜて練っていく。
「お母さん、これでいい?」
「・・・いいんじゃない」
機嫌(きげん)の悪いお母さんはほおづえをつき趣味(しゅみ)の料理本をめくりながら、ちらりと視線だけを秋斗の手元によこした。
練り上げたエサを指でふれて、秋斗は温度を確かめる。
あつくない、冷たくもない。
強いて言えば人はだよりはあたたかい。多分このくらいでいいはずだ。
エサやり用の細いストローみたいなプラスチックの管に、親指を引っかける輪のついた棒(ぼう)を慎重に差しこんだ。管を人差し指と中指にはさみ、輪っかに親指をかける。棒をそっとスライドさせて、エサやりのシミュレーションを入念に行った。
なんだか注射(ちゅうしゃ)でも打つようで、秋斗はドキドキする。