ピイの飛んだ空(3/8)

文・七ツ樹七香  

すり餌を手に帰宅した秋斗(あきと)がしつこくねだると、お母さんはしぶしぶといった様子で、ちいさなすり鉢と小鳥の給餌(きゅうじ)用の器具を出してくれた。前に飼っていた文鳥用の道具だという。そのすり鉢にエサの粉と、人はだよりちょっと熱いぐらいのお湯を入れてかき混ぜて練っていく。

「お母さん、これでいい?」
「・・・いいんじゃない」
機嫌(きげん)の悪いお母さんはほおづえをつき趣味(しゅみ)の料理本をめくりながら、ちらりと視線だけを秋斗の手元によこした。

練り上げたエサを指でふれて、秋斗は温度を確かめる。
あつくない、冷たくもない。
強いて言えば人はだよりはあたたかい。多分このくらいでいいはずだ。

エサやり用の細いストローみたいなプラスチックの管に、親指を引っかける輪のついた棒(ぼう)を慎重に差しこんだ。管を人差し指と中指にはさみ、輪っかに親指をかける。棒をそっとスライドさせて、エサやりのシミュレーションを入念に行った。
なんだか注射(ちゅうしゃ)でも打つようで、秋斗はドキドキする。

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県出身。「ピイのとんだ空」で第30回日本動物児童文学賞優秀賞。 「ラスト・オテモヤン」で第41回熊本県民文芸賞小説部門一席を受賞。熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、第1回西の正倉院みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞大賞、第16回深大寺恋物語 調布市長賞など。 共著に『謎解きホームルーム2』『恐怖文庫』『感動文庫』(いずれも新星出版社)動物が好き。犬と小鳥と暮らしている。