ピイ、ピイ、ピイ――。
まどごしにそれを見守っていたお母さんは、ちょっとした奇跡(きせき)みたいだったとのちに語った。
どこにひそんでいたのか、高いところから飛びおりるみたいにして小さなかたまりが落ちて来たのだ。秋斗が反射(はんしゃ)的に両手を合わせて作ったおわんの中に飛びこみ、黒い瞳をキラキラさせて、はげしく鳴きさえずる。
ピイだった。
「ああ、わかった。うん、ごはんすぐ作るよ! お母さん、ピイがっ、帰ってきた! ごはんだって! ごはんだって!」
ピイが自分から秋斗の手の中に飛びこんだのは、後にも先にもこの時だけだった。
必死に羽ばたいてもどって来たピイは、大変な目にあったかのように大きな声をあげながら、からっぽの口の中を見せつけるようにしてエサをねだった。