3 さらわれたトト
グェー! グェーゲゲー、グエーゲゲゲー!
急に、親ペンギンたちが、さわがしく、鳴き出しました。
「トウゾクカモメだ! ぬすっとだ!」
アディたちの頭の上を、何かが、さっと、飛び過ぎました。
「トーカモだ! 早く、巣にお入り!」
父ペンギンが、アディとトトを、自分の下にかくまいました。
でも、アディは、
「どうしたの? 何がおこったの?」
と、むりやり、父親の下から、頭を出して、外のようすをうかがいました。
すると、大きな茶色いつばさが、バサバサっと、飛び去るのが見えました。
「すごい! 空を飛んでる!? あれは何だろう!?」
「気をつけなさい、子供たち。あれはトウゾクカモメと言って、おまえたちをさらって、食べようと、いつもねらっているんだからね」
トトは、体を丸めて、ぶるぶる、ふるえています。
でも、アディは、トウゾクカモメの飛び去った空を、いつまでも、見やっていました。
「いいなあ、空を飛べるなんて! それに比べて」
アディは、自分の短いつばさを見やり、ため息をつきました。
「これじゃあ、とても、飛べやしない。ペンギンなんて、ほんとに、つまんない。地面を、よちよち、歩くしか、ないんだもの」
「ペンギンじゃなかったら、アディは、いったい、何になりたいの?」
トトが目を上げて、心配そうに、アディをうかがいました。
「あたしね、いつか、ぜったいに、空を飛んでやろうと思うの」
アディは、生き生きと、目をかがやかせました。
今度は、トトが、小さなため息をつきました。
親ペンギンたちは、やんちゃなアディが、空を飛びたいなどと、夢見ていることに気づきません。
気づいていたら、あるいは、あんなことは、起こらなかったかもしれません。