「ねえ、どこにあるの、そのつばさ!?」
「ここに持ってきているよ。ほら」
「え、どこ?」
「ここだよ。見えないかい? そこじゃ、遠いよ。もっと、こっちへ来なくちゃ」
アディは、のこのこ、トーカモの方へ、近寄りました。
いきなり、トーカモは、強いくちばしで、アディのつばさを、グイっと、くわえて、引っ張りました。
「あ、いたい! やめてちょうだい!」
アディは、力いっぱい、もがいて、のがれようとしますが、トーカモのくちばしは、ますます、強く、アディの手にくいこみました。
「トーカモだ! ぬすっとだ! ヒナがさらわれる!」
親ペンギンたちが気づいて、さわぎ出しました。
「アディ!」
母ペンギンも目をさまし、あわてて、トーカモに突進していきました。
でも、この時には、もう、トーカモは、つばさを大きく広げ、アディをぶら下げて、今にも、飛ぼうとしていました。
その時です。
ヒュン!
灰色の石つぶてが、トーカモの目を打ちました。
「いて!」
いっしゅん、アディをくわえていたくちばしがゆるみました。
「アディ! 今のうちだよ! にげて!」
それは弟のトトでした。
トトが、せいいっぱいの力で、トーカモに体当たりしたのです。
アディは、すばやく、トーカモのくちばしから手をぬき、母ペンギンの方へ走りました。
「こいつめ、よくもぼくの目を! ようし、おまえが身代わりだ!」
次のしゅん間、トーカモは、トトをくわえて、まい上がりました。
「グェーグェー、子供をかえせ!」
ペンギンたちのさけびもむなしく、トウゾクカモメは飛び去りました。
「さよなら、アディ! ぼくをわすれないで!」
トトの声は小さく、小さくなっていきました。
「わあ、トト!」
おいかけるアディを、母親がつかまえて、自分の下にかばいました。
「手おくれよ、アディ。もう、あきらめて」
「やだー! トトー!」
アディは、いつまでも、体をふるわせて、泣いていました。