氷のうき島は、水面に顔をのぞかせているのは、ほんの一部分だけ。
水の下には、とてつもなく大きな体が、ひっそり、かくれています。
アディは、その青い氷のかべを、下へ、下へと、たどって行きました。
もっと深く! もっともっと、深く! 「さよなら、アディ・・・」の声が聞こえなくなるまで・・・。
かべがつき、島の底が見えるあたりには、とっくに、ペンギンはおらず、アザラシたちが、ゆうゆうと、泳いでいるばかりです。
アディは、むねがやぶけそうになりました。
「く、くるしい・・・」
目が、ぼうっと、かすみます。
「おや、ペンギンだ。こんなところまで」
知りたがりのアザラシたちは、めずらしそうに、アディの周りに集まって来ました。
一頭が、
「おいおい、むりするなよ」
とでも言うように、アディの体を、鼻先で、ツンツン、おし上げました。
「ううう」
アザラシのおかげで、われに返ったアディは、水面へと向きを変えました。
「ぷはあ!」
水の上に顔を出すと、氷の上に、仲間たちが並んで、いぶかしそうに、アディを見ていました。
ペンギンのアディ(4/10)
文・伊藤由美