ペンギンのアディ(6/10)

文・伊藤由美  

6 スクアノタカラ

仲間が、どう、思っていようと、アディは構いません。じっと、モルテンを待っていました。
でも、なかなか、モルテンはもどってきません。
「だまされたんだよ、アディ。あんなやつのことはわすれた方がいいよ」
「そうだよ。それより、せっせと食べなくちゃ。夏は、いつまでも、続かないんだからね」
仲間たちは、そう、アディをたしなめました。

そうなのです。太陽は、地平を、一回りするたび、少しずつ、低くなっていきます。
それにつれて、光は、少しずつ、弱くなり、その分、風は、どんどん、冷たくなりました。
とうとう、ある日、ペンギンたちは、海岸からのぞむ遠い山々に、太陽が、ふっと、かくれるのを見ました。
雲は金色にかがやき、しばらくの間、山々は、美しいバラ色にそまりました。
それは若いペンギンたちが見る初めての夕暮れでした。
ペンギンたちは、そわそわ、なきだし、いつしか、歌になりました。

グェー グェー
夜が来る  夜が来る
お日様が おひっこしだ
北へ 北へ ひっこしていく
おいかけよう おいかけよう
あたたかい北の海へ!

この日から、ペンギンたちは、一羽、また一羽と、すがたを消しました。北へ旅立っていったのです。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに