「だからね、そこまで、確かに行ける者にたのんで、トトを連れてきてもらうのさ」
「確かに行ける者って?」
「太陽の娘たち、オーロラの姫君たちだよ。姫たちは、父君の太陽がかがやいているうちは、宮殿で、ごはんを食べたり、眠ったり、ふつうに、おとなしく、暮らしている。
でも、ほんとは、アディに負けないくらいやんちゃで、踊りたくて、たまらないんだ。
それで、父君が、北国をてらすために、出かけて留守になると、さっそく、宮殿を飛び出して、踊り出すんだよ。
だから、このあたりが真っ暗になって、空の穴、つまり、星が見え始めると、オーロラたちのダンスが見えるんだよ」
「モルテンは、星や、オーロラの姫君が踊るのを、実際に、見たことがあるの!?」
「ああ、あるよ。でも、ここじゃないよ。もし、そのころまで、ここにいたら、ぼくなんかは、カチカチにこおってしまう。君みたいな優秀なスーツ、着ていないからね。
ぼくがそれを見たのは、ずっと、北。ニンゲンという、風変わりな動物も、たくさん、見かけるような、暖かい地方だ。
だけど、スクアノタカラを使うには、この時期、太陽が一番遠くなる、このあたりがいいんだ。
きびしいおやじの目がないもんだから、姫たちは、すっかり、ゆだんして、はめをはずすだろう。だから、捕まえやすいんだよ。でもね・・・」
モルテンは口ごもりました。
「ぼくは、これ以上、ここにいるわけにはいかないんだ。言った通り、ぼくの羽毛は君のほど、寒さに強くないんだ。ぼくの仲間たちも、とっくに、北へ、わたってしまっている。
ぼくも、すぐに、出発するつもりだよ。だから、ここから先は、アディひとりでやらなくちゃならない。
だけどね、アディ、いくら、君のスーツがあたたかく、じょうぶにできていても、これから先もここにいたら、けっこう、命がけになっちゃうよ。
どうだい。いっそ、トトのことはあきらめて、ぼくといっしょに、北へ出発しないかい?」
アディが、きっぱり、首をふりました。
「あたし、あきらめない。トトを連れないで、北へ出発なんか、しないつもりよ」
モルテンはため息をつきました。
「強情だなあ。じゃあ、これからぼくが教えることをよく聞いて、その通りにするんだよ」
アディはうなずきました。