ラブソング

文と絵・田村理江

モカは隣に座るおばあちゃんを見上げた。ほっぺを赤く染めている。
向かいの席のおじいちゃんも、真っ赤な顔でうつむいていた。
博士が厳かに言った。
「これこそ、ふくろうボイスです!」
「まいったな、こりゃ、プロポーズの自作の歌だ」
おじいちゃんが小さくつぶやいた。

「研究は無事に終わりました」
博士は、おばあちゃんとおじいちゃんに丁寧に頭をさげ、
「都市伝説もバカにならないもんですぞ。フォッフオッフォッ」と、
意味深に笑った。
そしてモカには、カセットテープを返してくれた。
「ねーねー、薄謝は?」
それが一番大事。博士はトナカイに目配せし、トナカイは銀のお盆に甘い甘いクッキーを5箱積んできた。
「やったぁ! ありがとう!」

帰り道、おばあちゃんとおじいちゃんは、ずっとポカンとしていた。
でもね、行きと違うのは、モカの前を歩く二人が、手なんかつないじゃっているところ。
空は夕焼け。Y字路を振り返ったら、カドノ博士の家は、もうどこが入り口かわからないくらい、黒っぽいシルエットに変わっていた。

あの日からモカは「真夜中の鏡」を試そうと、頑張って遅くまで起きている。でも、いつの間にか眠ってしまい、12時に鏡をのぞくことが、いまだにできない。
「鏡にカドノ博士が映ってるといいな」
もちろん、少年の姿で。
そうしたら、おばあちゃんとおじいちゃんみたいに、ずっと仲良しでいられそうな気がするんだ。

田村理江 について

(たむら りえ)東京都生まれ 成蹊大学文学部日本文学科卒業。日本児童文学者協会第15期文学学校を終了。 第6回福島正実記念SF童話賞を受賞して、『ガールフレンドは宇宙魔女』(岩崎書店)を出版。 児童書の作品に『リトル・ダンサー』(国土社)、『夜の学校』(文研出版)、『魔の森はすぐそこに・・・』(偕成社)など。絵本の作品に『ふなのりたんていラッタさん』(フレーベル館)、『ハンカチのぼうけん』(すずき出版)など。 HP:田村理江のページ