コロナ禍で始めた私の豆本製作は、一点物の手作り豆本と、少部数の印刷豆本があります。年に2回ほど発行する印刷豆本のほうは、毎回、違うアーティストさんに装丁や表紙画をお願いしています。
今回公開する物語「ラブレター」は、『Love Letter』という豆本の中に収められています。テーマは“変わらぬ愛情”。忙しい日常に紛れて軽んじてしまいそうな、でも心のよりどころになっている確かな愛を描きました。
2022年ギャラリーウシンで行われた展覧会『豆本箱』で販売された豆本で、今回、皆様にWEB上でお届けできるのが嬉しいです。
ラブレター
こんなことは法に触れるんじゃないかって? まぁ、カタイこと言わないで。みんな、知ってて頼んでくるんですから。知ってて、自分の中で納得しているんです。
渋谷の裏通り、車も入れない路地のつき当たりに、築80年のボロ家がありまして、見ようによってはレトロ風な洋館。若い女の子には「カワイイ!」って言われそうな小さな家で、小さな看板が出ています。
『Letter』
キャラメルほどの大きさの色タイルをくっつけて並べた、手作り看板。何の店かって? 文字通り、手紙屋ですよ。
主人は、私。他に店員はいません。女一人の細々とした商売。お客様のために、手紙を代筆するのが仕事のすべて。
でも、これで結構やっていけますし、世間にも知られているんですよ。渋谷には昔から『恋文横丁』っていうのが、あったでしょう?
朝鮮戦争の時に米兵に恋した日本人女性のために、英文のラブレターを代筆していたって場所。ここに店を構えたのも、無意識にそれが頭に入っていたからかもしれません。(次のページに続く)