ここに来るお客様の大半は、老年に足を踏み入れた方ばかり。若い人が一度、この店に迷い込んで「過去を悔やむなんて、惨めったらしい」と言い捨てて帰っていったことがありましたっけ。
若い人がほんの少し前の過去を思うのと、私たちが後ろを見るのとでは、たぶん意味合いが違うのでしょうね。
「あの時、想いが叶っていたら」
そう思う気持ちの裏には、歯ぎしりしたいほどの口惜しさではなく、どこか甘やかな、夢のような感覚があるんです。
これまで歩んできた自分を受け止めながら、ささやかな慰めに酔う感じ。だから、私の手紙は世の中に不要なものではないはずです。
私だって。
見ず知らずの人に「おばあさん」と呼ばれる年齢になった私も、時折、昔の人を想い出すことがありますよ。丸眼鏡の学生さんだった、生真面目な人。ノートにびっしり、右上がりの角ばった小さな文字を書いた人。
(次のページに続く)