『ラーメン無料サービス 早いもの勝ち 一日一名さま』
ゆうびん受けに入っていたラーメン屋のチラシには、そう書いてあった。
ぼくはおもわずガッポーズをした。
駅前にできた新しいラーメン屋だ。気になってたんだ。
ぼくはラーメンが大好きだ。ラーメンがキラいな子供なんてきっといないぞ。ぼくのまわりの3年の友だちの中にも絶対いないにちがいない。
しかし、大人の中にはいる。ぼくのお父さんだ。
お父さんはラーメンがキラいだ。
信じられないことだけど、それにはわけがある。
お父さんは鼻にアレルギーを持っている。
ラーメンを食べると必ず鼻水がいっぱい出て、鼻がつまってフガフガの鼻声になる。
それがどうしてダメなのかというと――
うちのお父さんは花を作っている。家の庭や玄関先で。
その花から、よい匂いのする花のスプレーを作っている。
だから鼻がつまると仕事ができない。
だからラーメンを食べない。
だからぼくも連れていってもらえない。
ゲームを買うためにためているおこづかいをラーメンで使ってしまうのはもったいないし。
もう一度チラシをよく見ると、「このチラシを持参すること」と書いてある。
「よし!」
まだ朝だ。朝からラーメンを食べる人はきっと少ない。いけるかもしれない。
ぼくはチラシを握りしめ、気合いをいれた。ゆうびん受けの側にあるお父さんの大切にしているバラをけ散らし、かけだした。