ある朝、いつもの様にライラが水をくみに出ている時のことです。
ひとりの男が通りかかり、スゥのそばで倒れてしまいました。
着ているものもすり切れてボロボロで、長いあいだ飲まず食わずの様子で、とても弱っていました。
かわいそうに思ったスゥは、実を1粒だけ飛ばしました。
男はそれを見つけるとふるえる手を伸ばして指でつまみ、なんとか口の中に入れました。
すると、今にも死んでしまいそうだったはずの男は、たちまち元気になりました。
(なんて不思議な実なのだ…これは、きっと金になるぞ・・・)
男はスゥの前にひざまずくと、カバンから「植物語」と書かれた辞書を取り出し、ページをめくりながらスゥに話しかけました。
「アリガトウ ゴザイマス。アナタノ オカゲデ イノチビロイ シマシタ」
その男は、魔術を研究したことで王様に国から追放された学者で、植物と話すことができました。
「オレイニ、ゼヒトモアナタヲ ビョウキデ クルシンデイル オウサマニ ショウカイ サセテ ホシイノデス。ドウカ イッショニ キテ クダサイマセンカ?」
「ううん。僕はどこにも行かない」
ライラとはなれたくないスゥはその誘いを断りましたが、
「ダイジョウブ デス。カナラズ スグニ モドッテ コレルヨウニ、ワタシカラ オウサマニ ハナシマス 」
と、学者は何度も必死に頭を下げて、あきらめませんでした。
「本当にすぐに戻れるの?」
「ハイ、モチロンデス」
「・・・分かったよ」
「ドウモ アリガトウゴザイマス」
スゥを誘い出すことに成功した学者は、苗木ほどのスゥをていねいに地面から引き抜いて布で包んで抱えると、すぐにその場を去りました。
少し経ってライラが戻ってくると、もうそこにスゥの姿がありませんでした。
「スゥ、どこに行っちゃったの?」
彼女は、また独りになってしまいました。
街に着くと、学者はさっそくお城に向かい、王様に面会を申し出ました。
「何をしに帰って来た」
イスにもたれた王様が低い声でたずねました。
とても顔色が悪く、国中から集めた何人もの医者に囲まれていました。
「はい、王様。これは、どんな病気やけがも治る不思議な実のなる植物でございます」
学者は布を広げてスゥを差し出しました。
「お前の言葉など、誰が信じるものか。私の病気がよけい悪くなる。早く出ていけ!」
王様は兵士に学者をつまみ出すよう、命じました。
「お待ちください。これは本当でございます。王様のために戻ってきた私を、どうか信じてください!」
病気を治したい王様は実を1粒、口に入れて飲み込みました。
すると、学者の言葉の通り、苦しかった身体が、たちまち楽になりました。
何をしても治せなかった病気が治ったことに、周りの医者もおどろきました。
「ほうびをつかわす。何かほしいものはあるか?」
お金がほしかった学者はたくさんの金貨と引き換えにスゥを王様に渡すと、すぐにどこかへ行ってしまいました。