太陽がほしかった王様(6/8)

文・伊藤由美   絵・伊藤 耀

「王様、わが軍は、またまた、全めつでございます」
生き残った水兵から話を聞いて、王様は、
「ううむ」
と、頭をかかえてしまいました。
「もはや、1頭の象も、1そうの船も残ってはおらぬ。どうしたらよかろう」
すっかり、しょげかえってしまった王様は、とうとう、病気になってしまいました。
何日も寝込んで、少し、体の調子がよくなった頃、王様はベッドからはなれて、庭の、涼しい木かげに横たわっていました。

いい風が吹いていました。でも、王様の心はゆううつです。考えるのは太陽のことばかり。その太陽は、きょうも、はるかな高みをゆうゆうと渡って行くのでした。
「ああ、わしともあろうものが、なんたるふがいなさじゃ。このまま、悩みながら、死んでいくのか」
と、その時です。
「王様、私めが太陽を取ってさしあげましょう」
おだやかな声が言いました。
見ると、かたわらに一人のお坊さんが立っていました。

「おまえが太陽を取ってくれるだと」
王様は体を起こして、お坊さんをじろじろとながめまわしました。
どこのお寺でも見かけるような、ふつうのお坊さんでした。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに