「そ、それは何じゃ」
「あなた様の心臓でございますよ」
お坊さんはつぼのふたを開けました。
すると、八分目ほどのところまで水が入っていました。
「太陽というのは、こうやって取るものなんですよ」
お坊さんはつぼを太陽の方へかざし、
「入れ」
と、命じました。
すると、太陽は、すうっと、つぼに吸い込まれました。
あたりは、すっぽり、暗くなり、かわりに、いっせいに星が光り始めました。
「さあ、中をごらんください」
星明かりをたよりに王様がつぼをのぞくと、水の中に、ふにゃふにゃした、クラゲのようなものがいます。
「何だ、これは」
「太陽でございますよ」
「これが太陽だと! こんなつまらないものが太陽であるはずがない! 坊主といえども、そのようなうそは許さぬぞ!」
王様はお坊さんにくってかかりました。
「いえ、確かでございます。ただ、入れ物が変わっただけでございますよ。大空が入れ物であった時にはあのようにごうせいだった太陽も、あなた様の心臓が入れ物ではこの姿がせいぜいなのでございます」
お坊さんはすずしい顔です。
この時、王様は、まわりがやけに静かになったことに気がつきました。
「どうしたのじゃ。何も聞こえないぞ。樹木のそよぎも、山犬の声も」
「はい。生きている物が、みな、消えてしまったからでございます。太陽は命のみなもと。それをあなたが取ってしまわれたので、もう、この地上のどこにも、生き物は、何ひとつ、いませんよ。マガタにも、どこにも」
「何じゃと!」
あんぐり、あきれる王様の手に、お坊さんは、ぽんと、つぼを乗せると、
「お約束どおり、望みはかなえてさしあげました。では、私めもこれで」
と言って、ふいに消えてしまいました。