太陽がほしかった王様(8/8)

文・伊藤由美   絵・伊藤 耀

「あれ、どこへ行ったのじゃ」
見回しても、ただ、星々が、銀の砂をまいたようにうずまいているばかりです。なんとも、おそろしくてたまりません。
王様は、あわてて、山をかけおりました。来た時に通った森はすでに消え、町に入っても、人っ子ひとり、ねこ一匹、見当たりません。宮殿も、しいんと、静まり返っています。

「おーい、だれかいないのかあ!」
王様は宮殿の中を、部屋から部屋へと探し回りましたが、自分の声だけが、ガラン、ガランとひびきます。
庭園にも出てみましたが、冷えた大地に大理石の柱が立ち並んでいるだけで、花も草木もありません。
「おお、寒い・・・」
王様はガタガタとふるえながら、あちこち、走り回りました。お腹はどんどんすいてきますが、ごちそうを持ってきてくれる人はだれもいません。

「ああ、ここに一切れのパンと1枚の毛布があればなあ・・・」
なさけない気持ちでいっぱいになって、王様は、
「どんな宝物を手に入れたって、それが何になる!? こんなだれもいない世界で、たったひとりぼっちだったら!?」
と叫びました。
すると、「ひとりぼっち」という言葉だけが、自分の耳に、ガンガン、ひびきました。
王様はその場に、ずんと、へたりこんで、わんわん、泣きました。生まれて初めて、声を上げて泣いたのでした。

「そうじゃ!」
ふと、王様は、自分が、まだ、つぼを抱えていることに気がつきました。
王様はつぼのふたを取ると、
「お願いだ。世界をもとにもどしてくれ」
と、逆さまにしてふりました。すると、中から、ジャーッと、水があふれ出し、たちまち、海となって広がりました。そして、大波がドパーンとうねったかと思うと、ポーンと太陽をはき出しました。とたんに、まわりは、ぱあっと、明るくなりました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに