太陽がほしかった王様(8/8)

文・伊藤由美   絵・伊藤 耀

ヒュルンと木の葉がゆれました。王様は木もれ日の下で目をさましました。
「夢じゃったか・・・」
でも、見ると、王様の足にはヤブクサがからまり、切れて、血まみれになっています。
王様は立ち上がって、耳をすませました。小鳥がさえずっています。ミツバチの羽音も聞こえます。
お妃たちが、花をつみながら、歌っているのも聞こえてきます。

「だれかある」
王様が呼ぶと、すぐに、しわくちゃ大臣が進み出ました。
「はい、ここに。ご用は何でしょうか」
王様は、思わず、大臣の肩を、ぎゅっと、抱きしめました。
涙が、ぽろぽろ、ほほを伝わりました。

「王様、いったい、どうなされたのですか!」
びっくりしている大臣に、王様はまじめな声で言いました。
「国中のお寺に伝えてくれ。わしの愚かな命令で命を落としたたくさんの兵士や象たちのために、お祈りをささげてくれるようにと」
大臣が下がると、王様はていねいにくつをはきました。
それから、花園の中を、ゆっくり、歩き始めました。
ひとつひとつの樹木や花々をながめ、ミツバチのささやきや、小鳥の声に耳をかたむけながら。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに