学校に行けなくなった少女のかけがえのない1週間

海のアトリエ

堀川理万子 作・絵
偕成社
2021年5月刊
作品レビューで紹介の絵本『海のアトリエ』の表紙画像

◆絵描きさんと過ごす日々

今回ご紹介する絵本は、一人のおばあちゃんが孫と会話するシーンから始まります。
嫌なことがあって学校に行けなくなったおばあちゃんの少女時代の回想物語。

少女の母親は旧友である絵描きさんのもとに娘を預けることにしました。
1週間という短い時を過ごすのですが、そこで得た経験が少女の人生にとってかけがえのない財産となります。

絵描きさんは海の見えるアトリエで黒猫と一緒に一人暮らしています。
少女は、絵描きさんの絵を描く様子を眺めたり、食事の場面では名前のわからない珍しい料理を口にしたり、夜は世界中の絵本や画集、写真集を目にしたり・・・と、これまでの生活にはなかった新しい世界に触れる体験を重ねていきます。

朝目が覚めると絵描きさんが逆立ちをしている姿に驚きます。つづけて音楽をかけて不思議な体操を始めると、少女も真似してみます。
それから散歩に出かけると、絵描きさんに見守られながら、誰もいない海で泳いで過ごします。
家に帰り、絵描きさんが水彩で何枚も絵を描く様子を見て、少女もを描いてみることに。でも、白い紙を前にして止まってしまいます。

その時、絵描きさんのある言葉を受けて絵を描く楽しみを覚えていきます。
絵を描くことを通して少女の心もいつの間にか解きほぐされていきます。
また美術館を一緒に訪ねた時、辛そうな表情の彫刻を見て、少女はあることを感じます。
そして最後の日の晩のパーティ、翌朝の最後に海で過ごした時間・・・その一つひとつがずっと覚えていたい出来事になりました。(次ページに続く

えもり なな について

江森 奈々(えもり なな)1985年神奈川県生まれ。千葉県在住。幼少期より母から良質な絵本を与えられて育つ。幼い頃から絵を描くことが得意で、小学生の頃は漫画を描く。中学生になると美術部に所属し油絵を始める。灰谷健次郎の「兎の目」に感銘を受け、10代は日本や世界の児童文学を読みふける。現在、保育士をしながら絵本や童話、紙芝居の創作、読み聞かせを行っている。画家・イラストレーター、モデルとしても活躍中。絵本は1500冊以上読破。2023年be京都にて初のプチ個展を開催。パレットクラブスクール19期絵本コース卒業。トムズボックス2019冬季ワークショップ修了。 『絵本作家になるには、絵が描けないと無理ですか』(CATパブリッシング)の挿絵を一部担当。 ●YouTube:【なないろ本屋/7's BOOKSHELF】 ●Instagram:【nana_museum】