『てぶくろ』
ウクライナ民話
エウゲーニー・M・ラチョフ 絵
うちだりさこ 訳
福音館書店
物心ついたころから、私のそばにずっとある絵本『てぶくろ』は、寒い日に必ず読みたくなる絵本です。
母の話によると、私が幼少のころは、本当にてぶくろの中に住めると思い込んでいたようですが、幼稚園に入る頃にはおとぎ話の世界だと認識を変えていたようです。大人になると今度はどういう感想を持つのでしょうか。
日本での初版本は1965年。今でも冬になると書店の絵本コーナーに並ぶ大ベストセラーなので、ご存知の方も多いかもしれませんね。
ストーリーは、おじいさんが森の中でてぶくろを落とし、気づかずに行ってしまったシーンからはじまりますが、この絵本には、足跡だけで、人間であるおじいさんの姿は描かれていません。主人公は、ページをめくるごとに登場する動物たち。最初はねずみ、次はかえる、その次はうさぎ・・・と小動物から、最後はクマが登場し、それぞれが主役として描かれているのも楽しいです。
彼らは、自己紹介をするたびに、「オシャレぎつね」など自分の特徴を一言でわかるように名乗っています。大人ならビジネスシーンやママ友との自己紹介の場で見習いたい技ですね。ちいさなお子さまも、やがて公園や保育園、幼稚園と他人と触れあう機会が多くなるので、この絵本を通して学ぶことは多いでしょう。
最初にねずみが自分の温かい住家にと、てぶくろを見つけて住みだしますが、寒い真冬の森の中には、次々と小さなてぶくろの家に住みたがる動物がやってきます。「私も入れて」「どうぞ」、その会話の繰り返しでどんどん増えていく仲間は、寒い日に寄り添いたかったのでしょうか。
人数が増えても、先に来たものが譲るわけでもなく、後から来たものが追い出すわけでもなく、決して争いにならないストーリーは、読者にどんなメッセージを残しているでしょうか? いろいろ想像が膨らむ絵本でもあります。
さて、森の中を歩いて行ったおじいさんは、てぶくろが片方ないことに気づきました。寄り添って暮らす動物たちのその後も楽しみですよ。
「譲り合いの精神」という言葉をよく聞きますが、「共有する精神」も大切なことだと、大人になって改めて気づかされた絵本です。