『三月の空を見上げて』
漆原智良 著
第三文明社
読み終わった時にこう思いました。
「強さって、なんだろう」と。
著者は、人間性を失う戦争を経験し、戦災孤児となり、働きながら中学卒業資格を取ります。そして夜間中学、夜間高校と進学し、27歳で念願の教師となります。
最初の赴任地は、八丈島という遠隔地。島に医者がいなく、物資を島へ運ぶのも、水を飲むのさえ大変で、常に工夫が必要な生活。ここでの教師生活を書いた作品が、NHK放送記念祭賞を受賞します。作家としての仕事、大学教授と、人生が変容していきます。
著者は、耐え難い多くの理不尽な経験もし、人から心ない言葉も受けています。しかし、どん底でも見失わない希望。著者は、いつも何をしたいか明確にし、自身で決断していきます。
つらい状況でも、自分を持って行動しているのは、お父さん、お母さん、祖母、友だちの源さん、本田社長・・・大切な方の眼差しと言葉が支えとなっているからではないか、と感じました。思いやりある方の言葉は、意識できないほどの大きな力になっているのではないかと。
豊かで何でもしたいことができるようになった現代。でもつらい現実に心が折れてしまうことも多い世の中。若者の自殺者が多いことからも感じられます。でも強さって何か・・・それは、折れても新たに再生できることを知ることではないか。
本書で著者は、東北の震災で大切な方を失ったことを書いています。それは戦災孤児としてのつらい経験が、震災に合われた方々へと重なりあうところがあり、励ましの原動力となられたのでしょう。
つらい経験は、多くの人を励ます力になることを感じました。励ます力、それこそ本が持つ大きな力なのかもしれません。読んだあとに「私も前向きに生きてみよう」と思える本。小学生から年配の方まで、多くの方に読んでいただきたいです。