また、ネクタイはこんなこともいう。
「きのうは100グラム3000円ほどのステーキを食べたんだけど、とてもおいしかったよ。マミィーの作る料理は素材自体の味を大切にしてるからね。風味が違うんだ」
ネクタイは自分のお母さんのことを、「マミィー」と呼んでいる。お父さんは「パピィー」。
カタカナ英語ではなく、ちゃんとした英語で発音する。まるで自分が外国で育ったような口ぶりだ。
周りの友だちは、この話にも大いに感心したようで、うらやましい、すごくおいしいのでしょうね、一度でいいから食べてみたい、等々しゃべっている。
ぼくは、冷ややかな目でそのグループを見る。
ぼくは、表にこそ出さないが、心の内ではネクタイをいやなやつだと思っている。
だって、いつも鼻をぷっくりふくらませて、今みたいに、今日着てきた服がいかに高価で貴重なものか、きのう食べたご飯がいかにぼくらと違って高級なものか、自分がどんなにお金持ちで偉いかという話ばかりしている。
トンチンカンなことをいうんじゃない!
確かにネクタイの服は、上品でかっこいいし、食べ物だっておいしそうで、とてもうらやましい。