春を泳ぐヒカリたち(1/11)

文・高橋友明  

また、ネクタイはこんなこともいう。
「きのうは100グラム3000円ほどのステーキを食べたんだけど、とてもおいしかったよ。マミィーの作る料理は素材自体の味を大切にしてるからね。風味が違うんだ」

ネクタイは自分のお母さんのことを、「マミィー」と呼んでいる。お父さんは「パピィー」。
カタカナ英語ではなく、ちゃんとした英語で発音する。まるで自分が外国で育ったような口ぶりだ。
周りの友だちは、この話にも大いに感心したようで、うらやましい、すごくおいしいのでしょうね、一度でいいから食べてみたい、等々しゃべっている。

ぼくは、冷ややかな目でそのグループを見る。
ぼくは、表にこそ出さないが、心の内ではネクタイをいやなやつだと思っている。

だって、いつも鼻をぷっくりふくらませて、今みたいに、今日着てきた服がいかに高価で貴重なものか、きのう食べたご飯がいかにぼくらと違って高級なものか、自分がどんなにお金持ちで偉いかという話ばかりしている。
トンチンカンなことをいうんじゃない!
確かにネクタイの服は、上品でかっこいいし、食べ物だっておいしそうで、とてもうらやましい。

高橋友明 について

千葉県柏市在中。日本児童教育専門学校卒業。 朝昼晩に隠れているその時間ならではの雰囲気が好きです。やさしかったりたおやかであったり、ピリッとしていたりする。 同様に春夏秋冬や天気や空模様も好きです。 そうしたものを自分の作品を通して共感してもらえたら幸いです。